SILK◆俳句・短歌・散文

川田純
◆ 夕近く山陰の湖にやる船は水漬きし桑にさやりつつ出づ
◆ 浅う澄む飛鳥の川の秋の水に蚕棚いくらもひたしてありぬ
◆ 香具山を晴れゆく雨の返し風夕畑桑の葉揺れ涼しも


阿波野青畝(1899〜1992)
◆ かげぼふしこもりゐるなりうすら繭


結城哀草果(1893〜1974)
◆ 妻と二人夜中に起きてしみじみと弱き蚕に桑くれにけり
◆ 妻と二人真なかに起きて来たりけり酒ふきかくる弱き蚕に
◆ 小さきコロ二つの絹糸が陶製のビルメドくぐり大きコロに乗る
◆ 蚕上族の心ゆるみにははそはの母は眼を病み給ふかな
◆ 蚕をあげて繭売りたらば金持ちて旅に出でうと思ひつつ寝る
◆ 糸屑を口にくはえて噛みながら女工せはしく撚糸機扱ふ


土屋文明(1890〜1990)
◆ うづたかく白絹つみぬいそしみて国のつぐなひ果たさむがため
◆ 朝のひかり泰山木の葉にありて湧きあがるごとくに機の音きこゆ


吉岡禅寺洞(1889〜1961)
◆ 窓障子きいろにともり飼屋かな
◆ あめつちの中に清める蚕種(こだね)かな
◆ 蚕飼(こがい)女のきひろき顔のはげみいる


古泉千樫(1886〜1927)
◆ みどり吹く嵐あかるしこの村の養蚕の神に人まゐるなり
◆ 病みおもる思ひ救はれぬ桑原の芽ぶきあかるき土踏み行くも


若山牧水(1885〜1928)
◆ わが畑のさきの藁屋根いぶせきにその家の妻は機織りいそぐ
◆ 道にたつ埃を避けて道ばたの桑の畑ゆけば桑の実ぞおほき
◆ 秋かぜや碓氷のふもと荒れ寂びし坂本の宿の糸繰の唄
◆ 母が飼ふ秋蚕(あきご)の匂ひたちまよふ家の片すみに置きぬ机を


前田普羅(1884〜1954)
◆ 雷鳴って御蚕の眠りは始まれリ


斎藤茂吉(1882〜1953)
◆ 桑の香の青くただよふ朝明に堪えがたければ母呼びにけり
◆ 朝さむみ桑の木の葉に霜ふちて母にちかづく汽車走るなり
◆ ひとり来て蚕の部屋にたちたれば我が寂しさは極まりにけり
◆ はるばると母は戦を思ひたまふ桑の木の実の熟める畑に
◆ みちのくの我家(わぎへ)の里に黒き蚕が二たびねぶり目ざめけらしも
◆ たらちねの母の辺にゐてくろぐろと熟める桑の実を食ひにけるかな


窪田空穂(1877〜1967)
◆ 屑繭の糸あまりたりことごとく汝に著せむと母いひますも
◆ 五月雨の雫に濡れて桑畑の桑の緑葉光り出でつも


島木赤彦(1876〜1926)
◆ 家の隅桑に飢ゑたる蚕らもわがともす灯をうれしかるらん
◆ 桑の葉の茂りに向ふわれの目に光をひきて日は射しにけり
◆ 山蚕飼ふくぬぎが原のところどころあたま出す石はみな花崗石(みかげいし)
◆ 桑つみに行きたる妻もかへらねばおのれ一人を暮れめぐるかな
◆ 桑の葉のもろ葉の露のしたたりのけはひ静けきこのあしたかも


正岡子規(1867〜1902)
◆ 春の夜の衣桁(いかう)に掛けし錦らんのぬひの孔雀を照すともし火
◆ 上つ毛の新桑繭の小衾(をぶすま)にをし鳥ぬひて君を祝はん
◆ 信濃路や宿借る家の蚕棚


伊藤左千夫(1864〜1913)
◆ 巣かまへの桑児を守る家人がいたも待つべし急ぎ帰らぬ
◆ 垂乳根の母が飼ふ蚕の時を繁み帰らふ人を恋ふとはいはず
◆ 家作りものものしきを煤さびて蚕飼に暗し世の移りかも


小林一茶(1763〜1827)
◆ 末の子も別にねだりて蚕かな
◆ 二三日はなぐさみといふ蚕哉
◆ さまづけに育られたる蚕哉
◆ 村中にきげんとらるゝ蚕哉
◆ 人並に棚の蚕も昼寝かな
◆ 短夜や妹が蚕の喰盛
◆ 短夜や蚕の口のさはがしき


夏目成美(1749〜1816) なつめせいび
◆ 宵からの雨に蚕の匂いかな


与謝蕪村(1716〜1783)
◆ 神棚の灯は怠らじ蚕時
◆ ことしより蚕はじめぬ小百姓


河合曾良(1649〜1710)
◆ 蚕飼する人は古代のすがた哉


万葉集
◆ たらちねの母が養(か)ふ蚕(こ)の繭籠りいぶせくもあるか妹に相はずて
◆ 筑波嶺の新桑繭(にいぐはまよ)の衣はあれど君が御衣(みけし)しあやに着欲しも
◆ たらちねの母が養(か)ふ蚕(こ)の繭籠り隠(こも)れる妹を見るよしもがも
◆ 足乳根(たらちね)の母がそれ養(か)ふ桑(くはこ)すら願へば衣(きぬ)に着すといふものを




絹と九谷コレクション・ふづき

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